◆空き家はたくさんある。見つからないだけ。
総務省による前回の調査「平成30年住宅・土地統計調査」(総務省統計局)によると全国の空き家は850万件。建物全体の15%弱に及ぶ。
5年ごとに調査で最新の調査は令和5年であるが、集計結果が発表されるのは翌年の後半とかになるので、この記事を書いた後に最新の統計結果が出るかもしれない。
一応、最新の調査のリンクも貼っておく。
「令和5年住宅・土地統計調査」(総務省統計局)
さてさて、そんな統計を見ると、一割以上の建物が空き家なわけである。
ちょっと町内を歩けば10軒に1~2件が空き家ということだ。
そんな中住宅メーカーは相も変わらず新築を建てまくって売りまくっている。
住環境という意味では新築の方が断然優れている。
が、少し不便でも空き家は空き家としての魅力がいっぱいある。
そんなわけで空き家を借りる・購入する際のメリット・デメリットや注意点、活用方法などをまとめてみた。
合同会社SumSumでは長野県松本市の温泉街・浅間温泉の地で「篶竹荘」と「第2ペンギン荘」というシェアハウスみたいな下宿をやっている。このどちらも空き家を活用した施設である。
そんな自分の経験からも加えて、空き家の活用を考えている人や、空き家を持っていて処分を考えている人など、参考になるような記事を書いてみたわけである。
◆空き家を借りる・購入するメリット
空き家は空き家ゆえ、需給の観点から言うと超・供給過多な状態である。そのため、様々なメリットが存在するので、その一例を挙げていく。
①安価に購入・賃貸することが出来る。
これが一番かもしれない。同じような広さの新築の場合、購入するとしたら2~3000万円はくだらない物件でも、空き家の場合その10分の1、2~300万円で購入することも可能である。空き家は少なくとも修繕費用がかかると思われるが、圧倒的な安さにより修繕費用を補えるだけのメリットが存在する。
②立地がいいことが多い。
空き家(古民家)の場合、住宅不足により宅地開発された土地と違い、古くから人が住んでいたエリアに立地することが多い。これは古人の経験に裏付けされた災害が少なく、住みやすい地域だと実証されていると捉えることが出来る。
③文化的・歴史的価値のある建物に住める。
空き家の中には築100年、場合によっては200年の古民家などに出会えることもある。戦前に建てられた洋風建築などもその時代の文化を表した貴重な建物である。「重要文化財に住める!」というレベルまでは行かないまでも、文化的・歴史的に価値のある建物を実際に利用できるという点で大変なメリットである。
④今の建物位は無い”こだわり”を持った家に出会える。
③に似ているが住宅メーカーの新築物件とは違い、規格化されていない空き家にはその土地に根差した工夫や、元の持ち主のこだわりが随所に現れている場合がある。また、例えばカマドが残っていたり、囲炉裏が残っていたりと、レトロな暮らしをしたい人にとっても魅力的である。これらの”こだわり”を家の個性として活用すれば、唯一無二の住まいになることは間違いない。
⑤自分で直す楽しみがあり、愛着が沸く。
空き家の場合、新築に比べて築年数の分だけ先輩であるわけだから、新築よりも高頻度でメンテナンスが必要になってくる。これは一見デメリットでもあるが、「大切に、長く使おう」という視点でもってみてみると、愛着が沸く。また、新築の場合、どんどん古くなるという右肩下がりの物件であるが、空き家の場合、たとえ素人のDIYで直したとしても、(どう転んでも、元が悪かった分、)プラスの方向にしか変わらない右肩上がりの物件というのも面白い。自分が愛着をもって手を加えれば加えるほど愛着が沸き、快適な空間になっていくという楽しみが味わえる。
⑥空き家活用の補助金がある自治体もある。
「国の主な支援制度・事業 」(国土交通省・北陸地方整備局)と、地方整備局の例だが、まとめてあってわかりやすいのでリンクを貼ってみた。個人的には国や自治体の補助金というのは、「お金がもらえるから〇〇にしよう!」といった感じで自分が必ずしも望んでいないにも関わらず補助金目当てで自分の考えの方向を変えるという危険性があるのであまりお勧めしない。調べてみると空き家活用においての補助金は昨今の空き家問題の盛り上がりから結構充実している感じである。が!まずは調べる前に自分の好きな物件を見つけて、そのうえで補助金があったらラッキー的なアプローチをした方が得策だと思う。
◆空き家を借りる・購入するデメリット
とはいえ、空き家には数々のメリットがある分、当然デメリットも存在する。多くはみんなが想像する通りである。が、一応項目別に挙げてみる。
①人づてで探さなくては”いい空き家”は見つからない。
「空き家・空き地バンク総合情報ページ」(国土交通省)に一覧が載っていたけれど、空き家バンクだけでは情報量が心もとない。物件数が少なければ自分が気に入る空き家を見つけられる確率も減ってしまう。そのため、自分が住みたい、活用したいエリアを実際に歩いてみて空き家を探したり、近所の人に聞いてみたり、持ち主に直接交渉したりと、普通の建物を買うように、ネットで探す、不動産屋に仲介をしてみる・・・などの購入方法以外のアプローチが必要なことを理解しておく必要がある。
②既存不適格・再建築不可などの法的な制限も。
建築基準法は定期的に改正される。改正される前に建てられた建物で改正後の基準に達していない場合は「既存不適格」という何とも悲しいレッテルが貼られた物件になる。また、現在建物が建っていても接道していないなどの条件により、再建築不可な物件の場合もある。これらは不動産屋を介すことが出来るならば事前に知ることが出来るから、直接交渉をした空き家の場合でも仲介手数料がかかったとしても不動産屋を介すことで理解したうえで購入・貸借を検討することができるはずだ。
③修繕費用を見込まなくてはならない。
安く購入できるというメリットの分、多くの空き家物件はメンテナンスが必須になってくる。空き家の購入の場合、土地値などで販売され「古家つき」という、「空き家はあくまでおまけです、不動産屋も売主も一切責任は負いません」という売り方がある。そのため後々でてくる不測の事態なども含めた修繕費用を見込んでおく必要がある。また、不測の事態をなるべく起こさないために購入前の調査が重要になってくる。(とはいえ購入前に時間をかけて調査をすればするぶん、他の人に先を越されるという場合もあるから、このバランスがなかなか難しい)
④入居後もメンテナンス費用がかかる。
新築に比べて空き家は築年数の分だけ老朽化が進んでいる。当然、建物のメンテナンスは新築物件以上の頻度で行わなくてはそのまま劣化が進んでいってしまう危険がある。例えば屋根の場合だと瓦屋根はわりと長期間メンテナンスをしなくてもいいが、金属屋根の場合など定期的に塗装をしないと、錆→雨漏りの原因になりやすい。空き家を手に入れた時点でその寿命に達している場合があるので、やはり短期間でメンテナンス費用が頻発することを見込む必要がある。
⑤新築物件と比べたら必ずしも快適とは言えない。
新しい建物であるほど住環境の改善が進んでいるものである。わかりやすい点で言えば断熱性能だ。新しい家だとしっかり断熱材が壁の中に入り、サッシも二重、場合によっては三重となっている場合もある。結果的には冷暖房費の節約にもつながる。一方、空き家(古民家)の場合、住環境は必ずしも快適なものとは言えない。その点を理解・納得する必要がある。
◆空き家を選ぶ注意点
といった風に、空き家を利用するということはメリットもあれば当然デメリットも存在する。これらを理解して購入・賃貸することが重要であるが、もし空き家の活用を検討する場合の注意点・考え方をまとめてみた。
だいたいこの流れに従い、納得がいけばきっと素敵な空き家”活用”ライフが送れるような気がしている。
①空き家になった経緯を調べる。
これは案外重要かもしれない。暮らす、または活用する場所を選ぶわけだから経緯を知るというのは新築物件を探すときと同様に重要である。また、新たな宅地などでは近所の人がどんな人になるのかは運であるが、空き家などが建ち並ぶエリアは古い街のことが多いから逆に言えばどんな街か事前に知ることが出来るという点ではメリットだ。ご近所トラブルで空き家になったのか?相続問題で空き家になったのか?前者と後者では同じ空き家であっても全然違う。この辺りを事前に調べておくことで入居後のトラブルを回避することが出来るだろう。
②構造腐朽具合→雨漏り→汚れ→残置物の優先度で賃貸・購入の可否を決めることが重要。
空き家は当然新築のようなことを期待することはできない。だが、空き家を活用できるか否かを判定するにあたり、優先順位が存在する。もちろん、全部クリアな場合の方が修繕費用が安くて済むが、どれかが欠けていたからと言ってその空き家は活用できないという意味ではない点で注意が必要である。
②-1 構造
土台が腐っている、シロアリ被害があるなどの場合、その物件はあきらめた方がいい。土台、柱の交換は可能であるが、大掛かりな工事になり、ちゃんとした建物にする場合、莫大な費用が掛かることになる。ただし、これらを考慮に入れた価格に設定されている場合もあるから、許容できるなら購入・賃貸できないわけでは無い。
②-2 屋根
雨漏り具合にもよるが、空き家期間が長かった場合、小屋組みなども腐っている場合がある。屋根を葺きなおす場合、足場などを組む必要があるため、構造と同様に大規模な工事になりがちで100万円単位の修繕費用がかかる。とはいえ、これも構造と同様に、これらを考慮に入れた価格設定だったり、文化的・歴史的価値や個人的に意匠などが気に入った場合は必ずしも修繕できないわけでは無いから、費用対効果を考慮に入れて活用するか否かを決めたいところだ。
②-3 汚れ
上の空き家の室内写真を見て「汚い!やめた!」となってはいい空き家に出会えない。構造、小屋組み部分などがしっかりしていれば、内装の劣化具合、汚損などはまったく気にしなくていい。構造の改修と比べたら、内装工事はDIYでもできるし、頼んだとしてもそんなに費用が掛からない。上の写真の場合だと、壁を塗装ないしは壁紙を張り替えて、シンクを変えて、水道を今風のに変えればめちゃくちゃきれいな内装にすることができる。そういった点で室内の汚れについては空き家を活用するか否かの決定的な基準点にしなくてもいいはずだ。
②-4 残置物
残置物も汚れと同様だ。捨てればいい。それだけである。残置物を捨てて、ちょっと掃除をすれば見違えるほどになるはずである。ただし、産業廃棄物など処分に困る残置物の場合は話が別である。それは内覧の際に見ておくことが必要だ。
③修繕費用を多めに見積もる。優先度を決める。
ということで、優先度を決め、どこまで直せば自分が快適に暮らせるかを考えよう。多くの空き家の場合、水回りなどの設備更新は必要になってくるだろう。逆に言えば設備更新をすれば電気ガス水道を使えるようになるわけだから、どんなに汚れていても残置物があっても、構造さえしっかりしていれば「住めないことはない」のである。あとはオプションってわけだ。壁をきれいにする。畳をフローリングにする。照明を替える。この辺は予算と相談すればいいし、住みながら徐々に直していくというのも可能である。
④デメリットを理解したうえで賃貸・購入する。
空き家を活用する場合、寛容な心が必須になってくる。いくら事前に調査したと言っても不測の事態は必ずやってくるし、新築のように保証をしてくれることもほとんどない。そもそも空き家として長くあったということは売主(貸主)も積極的に買主(借主)を探していたわけでは無いのであるし、その相手に向かって「ここを直してくれたら買う・借りる」というのは傲慢である。使わせていただくくらいの寛容な心、謙虚な心で優しく空き家を使ってあげよう。デメリットは必ず存在する。ただし、それは新築であってもであるが。よっぽどこだわって新築を建てた場合でもデメリットがあるのだから、自分の意見が一切反映されていない空き家に至っては言わずもがな、である。
⑤想像する力が必要。
空き家活用に当たっては、朽ちている、汚れている、残置物がある・・・など一見した場合、こんなところに住めない!と思ってしまうことがある。機会損失だ。そうならないためにもちょっと創造力を養ってほしい。古民家を改装したカフェとかゲストハウスとか誰でも利用できる空き家をリノベーションした施設はいくらでもある。なんなら、改装前の写真などがあったらお店の人に見せてもらえたら最高である。なかなか慣れない人には想像できないかもしれないけれど、いくらでもきれいにすることが出来るのである。
⑥愛着が沸くか気持ちが一番重要!
また、気持ちも大切である。古民家は個性のある建物が多い。私が見た中で記憶に残っているのが、間取りの関係上増築するにあたり、床の間の壁をくり抜いてその先に部屋がある空き家があった。忍者屋敷である。私は「面白い!!」と思った。これは変わった一例かもしれないが、例えば屋根の形がかわいい、昭和20年代のタイル張りの釜戸がある、庭に茶室がある、畑が付いてくる、サツキとメイの家みたい・・・なんでもいい。自分の気に入る点があれば、その他のデメリットを補って余りうるメリットになり得るのだ。目に入れても痛くない状態である。最後は結局感覚か・・・と思われるかもしれないが結構重要な要素である。
◆空き家をうまく利用しよう!
と、いった感じで合同会社SumSumの記事の中では珍しく本気で書いた記事の一つになった。
馬鹿と鋏は使いよう。空き家も使いようによっては、唯一無二の素敵な建物に生まれ変わる可能性点があり、とても魅力的な存在である。
ただし、新築の場合とは異なった点で色々下調べしたり、見積もったり、DIYしたりと違った手間がかかるのも事実である。
それらを理解したうえで空き家活用をぜひ考えてみて欲しい。新築にはないデメリットを補えるだけのメリットをきっと見つけられるはずである。
合同会社SumSumでは松本市浅間温泉で下宿だった空き家を活用して下宿みたいなシェアハウスを運営している。
空き家だった建物に現在では十数人の人が移り住んでいる。それだけで空き家を活用するという社会的意義もあるはずである。
この記事を読んで、空き家に興味を持ってもらえたら幸いだ。
また、実際に参考にして購入・賃貸をしてくれたらもっと嬉しい。
ということで、空き家の活用方法についてのメリット・デメリットや注意点について”けっこう詳しく”書いてみた。
それでは。
~ほかにも記事書いています!~
合同会社SumSum「おしらせ・読み物」
→「こうやったらもっと暮らしって楽しくなりそうだなー」みたいなことを書いています。
→「ふつうの暮らし」「日常」をちょっと楽しくする提案やデータなどをもとにした考察みたいなのも。
篶竹荘「ブログ」
→「ぽん」のInstagramをもとに短い文章で書ききれなかった情報を加えて「より詳しい」日常、ふだんの暮らしを投稿します。
第2ペンギン荘「お知らせ・ブログ」
→第2ペンギン荘のマスコット「第2ペンギン」がいろいろやってみる”てい”で書いています。
→調子に乗ってラインスタンプも作りました。
Instagram「第2ペンギン荘」
Instagram「ぽん(篶竹荘と第2ペンギン荘)」